Bitcoin 投機的資産から「デジタル・ゴールド」への変遷
2025/12/30 22:00

目次
ビットコインの生成と市場の成熟
ビットコインは2009年1月3日、サトシ・ナカモトと称される匿名主体により、ブロックチェーン技術を用いたピア・ツー・ピア(P2P)の電子キャッシュシステムとして公開されました。
最大発行量は2100万枚に限定されており、約4年周期の半減期による供給調整がプログラムされています。
当初、ビットコインはその高いボラティリティから貨幣としての適格性が疑われていましたが、中央銀行による通貨供給(不換紙幣)への対抗軸として「貨幣の脱国家論」的な背景を有していました。
近年市場の効率化と成熟が進み、計量経済学的な分析によれば、ビットコインの年率ボラティリティは、初期サイクルの155%から直近では約50%まで落ち着いています。
また、ビットコイン現物ETFの承認や機関投資家の参入により、「投機」から「戦略的準備資産(デジタル・ゴールド)」としての受容へとパラダイムシフトを起こしています。
ビットコインの法定通貨化
ビットコインを法定通貨として導入する際、最も慎重な検討を要するのが金利の構造と国際金融のトリレンマへの影響です。
政策金利と市場金利の構造的乖離
金融システムにおいて、政策金利は中央銀行が通貨の価値調整や景気刺激のために裁量的に設定するものです。
しかし、ビットコインには中央銀行が存在しないため、当然ながら「政策金利」という概念は存在しません。
一方で、ビットコインの貸出(レンディング)市場の拡大に伴い、
需給に基づいた「市場金利」が形成されています。
2021年時点のデータでは、暗号資産取引所等のレンディングサービスにおいて最大5%程度の市場金利が観測されていました。
これがビットコインにおける金利の近似値として機能し始めています。
- 市場金利とは
市場金利とは、銀行・企業・投資家などの市場参加者が、資金を貸し借りする際に市場で自発的に形成される金利のこと。
- 政策金利との違い
- 政策金利:中央銀行(日銀)が操作目標として定める金利
- 市場金利:政策金利の影響を受けつつも、市場で決まる金利
市場金利の存在により、為替レート決定モデルの構築が可能となりました。
機関投資家の参入により、ビットコインが既存の国際金融理論の枠組みに組み込まれつつあります。
変動為替レートと資本移動の自由化
小国がビットコインを法定通貨に採用した場合、以下の事態が懸念されます。
ビットコインは米ドル等の主要通貨に対して「変動為替レート制」として機能します。
ビットコインの性質上、国境を越えた資本移動は事実上完全に自由化されます。
この状況下で小国が独自の景気対策を行おうとしても、貨幣発行量という裁量的金融政策の手段を喪失しているため、不景気時に金利を下げて景気を刺激することが困難になってしまいます。
これは、経済的ショックに対する回復力を低下させてしまい、財政政策への依存を強める構造的脆弱性を生みます。
エルサルバドルの事例と多角的分析
エルサルバトルでは2021年6月に「ビットコイン法」が成立しました。
既存の米ドル(ドル化経済)にビットコインを加える形で施行されました。
金融包摂と送金コストの最適化
エルサルバドルでは、国民の約70%が銀行口座を持っていません。
しかし国民の8割は携帯電話を所有しています。ビットコインは「金融包摂」のツールとして機能し、銀行を必要としません。
パソコンやスマートフォンさえ持っていれば金融アクセスが可能となります。
また、GDPの約22%を占める海外送金においても、ライトニングネットワーク等の技術を活用することで、
従来の送金業者による高額な手数料を劇的に削減できる意義は極めて大きいと言えます。
実装の混乱と技術的障壁
しかしエルサルバトルでは施行当初、公式ウォレットの不具合やなりすまし犯罪が多発しました。
また、施行初日にビットコイン価格が約20%下落し、価値の保存手段としての信頼性を失ってしまいました。
さらに、IMFや世界銀行は、透明性の欠如やマネーロンダリングのリスク、
環境負荷(エネルギー消費)を理由に強い懸念を示しており、国家の信用格付けに負の影響を与えることとなりました。
強制通用力の例外なき適用という仮説
エルサルバドルビットコイン法第7条は、経済主体に対しビットコインによる支払いの受け入れを義務付けています。
第12条において「技術的にアクセスできない者」を除外する規定を設けています。
もし将来的に、この除外規定を排した国家が現れた場合、国際法および各国国内法に重大な影響を及ぼします。
日本の「資金決済法」では、外国通貨は「外国において強制通用力を持つもの」を想定しております。
現在はビットコインを「外国通貨」ではなく「暗号資産」と定義しています。
例外なき強制通用力が確立されれば、ビットコインは世界的に「法定通貨(外国通貨)」として認定され、
税制や規制の枠組みを抜本的に再定義する必要が生じるでしょう。
経済的自立への試練
ビットコインの将来は、戦略的資産としての価値と、技術的・制度的リスクのバランスに依存しています。
今後、ビットコインが普及し制度化されるほど、当初の理念である「分散化」や「検閲耐性」が失われてしまいます。
また、量子コンピューティングによる暗号技術の無効化リスクや、所有の集中といった中央集権化への懸念も無視できません。
国家がビットコインを法定通貨として導入することは、「金融政策の独立性」を放棄する代わりに、
「金融包摂」と「送金効率」という新たな公共財を得る試みとなります。
しかし、その成功には単なる導入に留まらず、為替変動リスクを管理するための市場の整備や、
国民に対する高度なデジタル・リテラシー教育なども必要になるでしょう。
「デジタル・リザーブ」の立ち位置から、真の通貨としての自律性を勝ち取れるかは、国家のガバナンス能力に懸かっています。
参考文献および引用元
- Sasmita Panda (2025). "Bitcoin Unveiled: Empirical Insights into the Adoption of a New Digital Currency Through the Lens of Extended TAM". SSRN-5838882.
- Tiernan Collins (2025). "The Future of Bitcoin: Market Maturity, Strategic Reserves, and the Paradox of Institutional Accumulation". University of Galway.
- 小川健 (2022). 『ビットコインの法定通貨化における意義と問題点 ~エルサルバドルの法律を受けて~』. 専修大学社会科学研究所 社会科学年報 第56号.

