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日本の年金改革による格差縮小

2025/12/30 19:00

日本の年金改革による格差縮小

日本の少子高齢化が進む中、これまでに何度も行われてきた「年金制度の改正」ですが、「給付が減る」「もらえる年齢が上がる」といったニュースを聞くと、どうしてもネガティブな印象を持ってしまうと思います。
しかし、これら一連の改革が、実は「所得格差を是正する」という側面を持っているのではないかという話がありました。

※査読前のワーキングペーパーを参考にしています、推計結果は一定の仮定に基づくものです。

なぜ日本の年金制度は「改革」され続けてきたのか?


日本の公的年金は、現役世代が受給世代を支える「賦課(ふか)方式」が基本です。
しかし、急速な高齢化によって財政が厳しくなり、1980年代半ばから政府は「持続可能な制度」にするための改革を重ねてきました。

受給開始年齢の引き上げ
60歳から65歳へ段階的にアップ
給付水準の抑制
報酬比例部分の乗数の引き下げなど
在職老齢年金
働きながら年金をもらう際の調整
雇用の継続
65歳までの雇用確保の義務化

所得層ごとの影響


一橋大学の小塩教授らによる研究チームは、過去40年間のデータを分析し、これらの改革が「生涯賃金の高い人」と「低い人」にそれぞれどのような影響を与えたかを調査しました。

全員の「生涯でもらえる年金(SSW)」は減少。
当然ながら、給付抑制の改革によって、すべての所得層で将来受け取れる年金の総額(社会保障資産)は減少。しかし、その「減り方」には違いがありました。

- 高所得層(男性):約20.3%の減少
- 低所得層(男性):約13.2%の減少

所得層改革がなかった場合(推定)改革後の現在減少額(差額)減少率
高所得層約5,208万円約4,203万円マイナス約1,005万円約19.3%〜20.3%減
低所得層約2,680万円約2,397万円マイナス約283万円約13.2%〜16.6%減

高所得者の方が削減幅が若干大きい


金額で見ると、高所得層は約1,000万円も年金資産が減っています。
これは、近年の一連の改革が「報酬比例部分(現役時の給料が高い人ほど多くもらえる部分)」を主に抑制してきたためです。

低所得層の減少額は約280万円にとどまり、減少率も高所得層より低く抑えられています。
結果として、「持っている年金資産の差」が改革前よりも小さくなりました。

このように、「お金持ちほど、年金のカット率が大きかった」のです。

なぜ高所得者の方が影響が大きかったのか?


これには大きく分けて2つの理由があります。

仕組み上の理由(機械的効果)


日本の年金は、一律でもらえる「基礎年金」と、現役時代の給料に比例する「報酬比例部分」の2階建てです。
2000年代初頭から現在にかけて実施された一連の社会保障の改革では、「報酬比例部分」の削減が大きかったため、もともとの給料が高い人ほど、カットされる金額も割合も大きくなりました。

働くことによる効果(行動的効果)


「年金が減るなら、もう少し長く働こう」という動きが、低所得層の男性で強く見られました。
長く働くことで保険料を納める期間が増え、結果として年金の減少をカバーしているのです。長く働く結果、年金資産の減少を少しだけ(約3.6%分)押し戻す効果があったことも示されています。

年金制度は「より平等」な方向へ


近年の日本の社会保障改革が、単に財政を立て直すだけでなく、「受給者間の不平等を縮小させる」という再分配機能を強化してきたことを示唆しています。

高所得層(生涯賃金2億円程度)の人は、改革によって生涯の年金受け取り期待値が1,000万円ほどカットされた一方、
低所得層(1.3億円程度)の人は280万円程度のカットで済んだ、という具体的な格差是正の姿が見て取れます。

社会全体で見れば、より必要なところに手厚く、余裕がある層には応分の負担を求めるという形へと進化していると言えるかもしれません。

引用元・参考文献


本記事は、以下のワーキングペーパーの内容を元に作成しています。詳細なデータや分析手法に興味がある方は、ぜひ原文も参照してみてください。

- タイトル: Social Security Reforms and Inequality in Japan
- 著者: Takashi Oshio, Satoshi Shimizutani, and Akiko S. Oishi
- 発行: National Bureau of Economic Research (NBER)
- 論文番号: Working Paper 34574 (December 2025)
- URL: https://www.nber.org/papers/w34574